Novum Testamentum in arte occidentali
新約聖書
カタコンベの壁画から20世紀まで、西洋美術は新約聖書の場面を繰り返し描いてきました。描かれた場面は、受胎告知と降誕に始まり、キリストの公生活と受難、復活、聖母の生涯、使徒たちの伝道、ヨハネの黙示録と最後の審判にまで及びます。
- 制作年・所蔵は一般的な通説によります。厳密な典拠が必要な場合は各リンク先で確認してください。
- 章節番号は新共同訳・聖書協会共同訳に従っています。聖母の生涯やマグダラのマリアなど、福音書に記述のない主題は外典(ヤコブ原福音書)や『黄金伝説』に基づきます。
第一部 受胎告知とキリストの幼年期Infantia Christi
受胎告知から博士との議論まで。マリアと幼子を中心とする幼年期の物語は、聖母崇敬と結びついて西洋美術で最も多く描かれた主題群であり、降誕・三博士の礼拝は祝祭的な大画面に、エジプトへの逃避は風景画に展開しました。
- 受胎告知14点
天使ガブリエルが処女マリアに受胎を告げる。
- 聖母訪問(エリサベトへの訪問)5点
身ごもったマリアが、洗礼者ヨハネを宿す従姉エリサベトを訪ねる。
- 降誕と羊飼いの礼拝10点
馬小屋の幼子、牛とロバ、羊飼いたち。
- 東方三博士の礼拝10点
星に導かれた三人の博士(王)の礼拝。
- 割礼、神殿奉献、シメオンの讃歌6点
生後40日の幼子を神殿に献げ、老シメオンが「今こそ主よ」と歌う。
- エジプトへの逃避、逃避途上の休息7点
ヘロデの追手から逃れる聖家族。
- 幼児虐殺7点
ヘロデ王による幼児殺戮。
- 聖母子、聖家族、聖アンナと聖母子21点
玉座の聖母(マエスタ)から親密な母子像、聖ヨセフ・幼い洗礼者ヨハネ・聖アンナを加えた聖家族へ。
- 博士たちと議論する少年イエス3点
12歳のイエスが神殿で律法学者と語り、両親が三日後に見つける。
第二部 洗礼者ヨハネとキリストの公生活Vita publica
洗礼、荒野の誘惑、弟子の召命、奇跡、出会い、譬え話。カラヴァッジョの《聖マタイの召命》やヴェロネーゼの《カナの婚礼》のように、福音の物語は同時代の風俗の中に置き直されて描かれました。
- 洗礼者ヨハネ:誕生、荒野の説教、キリストの洗礼9点
ヨルダン川での洗礼(三位一体が同時に顕現する場面)は、ピエロの静謐な幾何学、ヴェロッキオ工房での若きレオナルドの天使で知られます。
- 荒野の誘惑5点
四十日の断食の後、悪魔に三度試みられるキリスト。
- 弟子の召命、奇跡の漁6点
漁師ペテロとアンデレ、徴税人マタイの召命。
- カナの婚礼5点
水を葡萄酒に変える最初の奇跡。
- 奇跡:嵐を鎮める、パンと魚、盲人の癒し、ベテスダの池、ラザロの復活12点
自然と病と死を制する奇跡。
- 変容4点
タボル山で光り輝き、モーセとエリヤと語るキリスト。
- 出会い:サマリアの女、姦通の女、マルタとマリア、ニコデモ10点
井戸のサマリア女、「罪なき者が石を投げよ」、働くマルタと聞くマリア。
- マグダラのマリア:罪の女、悔悛のマグダラ8点
香油でキリストの足を拭う罪の女、髪を伸ばして荒野で悔いる聖女。
- 貢の銭、神殿からの商人追放、子供を祝福するキリスト6点
魚の口から銀貨を取り出す奇跡(マサッチオ)、皇帝への納税をめぐる問答(ティツィアーノ)、両替商を追い払う怒りのキリスト(エル・グレコ)。
- 譬え話:放蕩息子、善きサマリア人、盲人の譬え、賢い乙女と愚かな乙女、種蒔く人11点
レンブラント晩年の《放蕩息子の帰還》は赦しの図像の頂点。
- 洗礼者ヨハネの斬首、ヘロデの饗宴、サロメ12点
ヘロディアの娘の踊りの褒美に斬られる預言者の首。
第三部 受難Passio
エルサレム入城から埋葬まで。受難は典礼と黙想(『十字架の道行』、受難劇)の中心にあり、磔刑・ピエタ・十字架降下は西洋美術で最も反復された図像です。
- エルサレム入城5点
ロバに乗り、棕櫚の枝で迎えられる入城。
- 最後の晩餐、洗足12点
「あなたがたの一人が私を裏切る」の瞬間を捉えたレオナルド、対角線の光と天使で聖体の神秘を描いたティントレット、ダリの十二面体の幾何学。
- ゲッセマネの祈り(オリーブ山の苦悶)6点
眠る弟子たちの傍らで血の汗を流して祈るキリスト。
- ユダの接吻、キリストの逮捕5点
接吻を合図にした裏切りと捕縛、ペテロがマルコスの耳を切り落とす混乱。
- ペテロの否認、カイアファとピラトの前のキリスト、この人を見よ10点
鶏が鳴く前の三度の否認(レンブラント、カラヴァッジョ)、蝋燭に照らされた大祭司の尋問(ホントホルスト)、群衆に示される茨冠のキリスト「エッケ・ホモ」(ボス、ティツィアーノ、チゼー…
- 鞭打ち、茨の冠8点
柱に縛られ鞭打たれ、茨の冠を被せられ嘲られるキリスト。
- 十字架を担うキリスト、ゴルゴタへの道7点
キレネのシモンの助け、ヴェロニカの布、倒れるキリスト。
- 磔刑20点
キリスト教美術の中心図像。
- 十字架降下8点
アリマタヤのヨセフとニコデモがキリストの遺体を下ろす。
- 哀悼(ラメンテーション)、ピエタ、死せるキリスト15点
遺体を囲む嘆きと、聖母の膝の上の遺体(ピエタ)。
第四部 復活、昇天、聖霊降臨Resurrectio
墓から立ち上がるキリスト、「我に触れるな」、エマオの晩餐、疑うトマス、昇天、聖霊降臨。復活の主題は「見ること」と「信じること」の関係を問い、カラヴァッジョとレンブラントが最も深く掘り下げました。
- 復活6点
眠る番兵の上に旗を掲げて立つキリスト。
- 墓を訪れる女たち、我に触れるな(ノリ・メ・タンゲレ)5点
空の墓の天使と、庭師と見誤られた復活のキリストに触れようとするマグダラのマリア。
- エマオの晩餐、疑うトマス、ペテロへの顕現8点
パンを裂く瞬間に弟子が正体に気づくエマオ(カラヴァッジョは腕を広げる若いキリスト、レンブラントは光の中の痩せたキリスト)。
- 昇天、聖霊降臨6点
雲に上るキリストと、炎の舌として使徒たちに降る聖霊。
第五部 聖母マリアの生涯と栄光Vita et gloria Mariae
福音書には記述のない、外典と伝承に基づく聖母の生涯——誕生、神殿奉献、婚約、死、被昇天、戴冠、無原罪の御宿り。マリア崇敬の展開とともに膨大な図像が生まれました。
- 聖アンナとヨアキム、聖母の誕生と神殿奉献、婚約5点
金門での出会い、マリアの誕生、幼いマリアの神殿の階段登り、ヨセフとの婚約(棒に花が咲く)。
- 聖母の死、被昇天、戴冠11点
使徒たちに囲まれて眠る聖母(ドルミツィオ)と、天に上げられ三位一体に冠を授けられる栄光。
- 無原罪の御宿り、慈悲の聖母、ロザリオの聖母、悲しみの聖母11点
月を踏み星の冠を戴く「黙示録の女」の姿で描かれる無原罪の聖母はスペイン・バロック(ムリーリョ、ベラスケス、スルバラン)の看板主題。
第六部 使徒行伝と使徒たちActa Apostolorum
ペテロとパウロを中心とする教会の始まり。ローマ教皇権の根拠となる「鍵の授与」、パウロの回心と殉教、ステパノの石打ち。ラファエロのタペストリー原画とカラヴァッジョのチェラージ礼拝堂が頂点です。
- ペテロ:鍵の授与、牢からの解放、逆さ磔7点
ペルジーノの整然とした広場での鍵の授与は教皇の首位権の宣言、ラファエロの天使の光は夜景表現の先駆、カラヴァッジョとミケランジェロは逆さに磔にされる老人の肉体を描きました。
- パウロの回心、説教、殉教6点
ダマスコへの道で光に打たれて落馬するサウロ。
- ステパノの殉教、アナニアの死、その他の使徒行伝5点
最初の殉教者ステパノの石打ち(レンブラントの現存最古の署名作)、ペテロの言葉で倒れるアナニア、エチオピアの宦官の洗礼。
第七部 ヨハネの黙示録と最後の審判Apocalypsis
黙示録の四騎士、子羊の礼拝、天使と竜の戦い、黙示録の女、そして最後の審判。デューラーの木版画連作と、ミケランジェロのシスティーナ壁画が二つの頂点。
- 黙示録の幻視:四騎士、子羊の礼拝、大淫婦、新しいエルサレム7点
アンジェのタペストリーとバンベルクの写本が中世の体系的図像、デューラーの15点の木版は宗教改革前夜の終末感を伝えます。
- 大天使ミカエルと竜、黙示録の女5点
太陽をまとい月を踏む女(無原罪の聖母の図像源)と、彼女を狙う赤い竜、それを打ち倒すミカエル。
- 最後の審判12点
審判者キリストを中心に、右に救われる者、左に堕ちる者。
第八部 初期キリスト教・中世の新約図像Ars paleochristiana et medievalis
カタコンベの善き羊飼いから、ラヴェンナのモザイク、写本、ロマネスク・ゴシックの彫刻とステンドグラスへ。近世の画家が受け継いだ図像の型はここで形成されました。
- 初期キリスト教・ビザンティン・中世の代表作12点
キリストは当初「善き羊飼い」や哲学者として表され、4世紀以降に髭の全能者(パントクラトール)の像が定着。
第九部 近現代の新約:福音の再解釈Aetas nova
教会の注文が減った19世紀以降も、キリスト像は画家の自画像、社会批判、民族の受難、実存の問いとして描き続けられました。ティソは水彩350点のキリストの生涯を、ルオーは版画58点の《ミゼレーレ》を残しています。
- 19–20世紀のキリスト伝・受難連作11点
ナザレ派とラファエル前派の考古学的写実、ロシア(イワノフ、ゲー、クラムスコイ)の人間イエス、ティソの水彩連作、ルオーの《ミゼレーレ》、ノルデの表現主義、マティスのヴァンスの礼拝堂。